結晶世界と世界観としての科学(「25時のバカンス」市川春子さん)

何十年も前、父と映画「第三の男」を観ていたときのこと。
主人公が、社会の敵となってしまった親友を撃たなければいけなくなったシーン。
とうとう友を追いつめた主人公。
見つめ合う瞳。
そして公園に轟く一発の銃声。
ああ、なんという哀しみ。

しかし、それを見た父が怒り始めた。
「どうなったんだ。撃ったのか!ちゃんと映せ!」
・・・私の気分が台無しですよ、父上。

演出というものには、受ける側にもある程度の慣れというものが必要なのかもしれない。
私の父の場合、極端に想像力が欠けているのだけれど。


というわけで、市川春子さんのマンガ短編集「25時のバカンス」がとんでもなく面白いのに、お勧めできないという困ったことになっている。
ストーリーも表現も独特で、読み解くのに、想像力と知識、経験を要する。
でも、それだけに、ハマると、何度も読み直しても飽きないのだ。
そして、その絵のスクリーントーンを使った硬質な表現は、永野護さんのようであり、また、やわらかな表現は高野文子さんのようであり。萩尾望都さんのようでもあり、真鍋博さんのようでもあり、私にはとても魅力的だ。


「25時のバカンス」あらすじ
海洋生物学者の乙女は休暇をとった。
所属する会社が所有する世界の果てにあるような保養所で、カメラマンで世界を飛び回っている弟を招いて、弟の20歳のお祝いをするつもりだ。
しかし、実はそれはただのバカンスではなかった。
彼女の弟への告白と、そして償いのための時間だった。
しかし、その大切な時間に、なぜか会社の人々が絡んできて・・・

「パンドラにて」あらすじ
土星の衛星、パンドラ。
そこには、土星探索のエリートを養成する女学校があるのみ。
その学校の不良生徒、ナナは到着した新入生のロロと出逢う。
孤立していくナナに、ただ独り黙って尽くすロロ。
それは、実はナナの遠大な計画に則ったものだった。
しかし、その先には権力者であるナナの兄の陰謀がちらつく。
二人はどうなるのか?

「月の葬式」あらすじ
周囲の期待に背いて、北の果ての街に逃げてきた天才少年。
先のない旅の中で、奇妙な男と出逢い、匿われ、彼の弟という設定で生活を共にする。
しかし、一緒に過ごしていると、その男には、どうも秘密があるらしい。



さて、私の読んだ市川春子さんの作品「宝石の国」と「25時のバカンス」には、共通のモチーフを感じる。
 ・有機体である我々人間(もしくはそれを模ったもの)が、宝石や真珠といった結晶的なものや、金属・機械などと融合する。そして、それは砕ける。壊れる。
 ・世界観の装置としての科学的なモチーフ
 ・無性的な愛
それは、稲垣足穂や宮沢賢治や鴨沢祐仁、たむらしげる、長野まゆみ、鳩山郁子・・・そんな人たちと共通するものなのだろうと思う。(それをある程度まとめて紹介したメディアは知らない。強いて言えば1992年STUDIO VOICE特集スティル・ライフくらい。ムーブメントでもなんでもないけれど、共通の意識の底辺にある感じ)
そこが私の心の琴線に触れたと思うので、上記文中のキーワードに引っかかった方にはぜひお勧めしたい。
とはいえ、そうじゃない人にもぜひ。








テーマ : 漫画の感想
ジャンル : アニメ・コミック

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相棒はDUCATI MONSTER696とHONDA solo。
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