これは愛の話(関谷あさみさん「千と万」)

前にも紹介したことがあるのですが、関谷あさみさんの「千と万」の最終巻が出たので早速拝読しました。

父子家庭の父と娘の日常のお話です。
娘の詩万(しま)ちゃんは中学1年生。ちょっと難しいお年頃。でもまだまだ子供。
お父さんの千広(ちひろ)さんは、一人娘がかわいくてしかたないけれど、距離感を常に考えて、子育てに頑張る毎日。でもちょっと甘えさせすぎ。

関谷さんの描く女の子はとてもかわいいのだけれど、父子家庭のずぼらな一面ものぞかせる生活感がリアルだし、かわいいだけじゃない女の子の姿もまた現実感があります。
160915千と万

そんな二人の生活はこの巻でも続くのですが、読者にとって衝撃的なことが分かります。
それはいままで全く話に出てこなかった、詩万ちゃんのお母さんのこと。


<注意!以下ネタバレあります>


詩万ちゃんのお母さんは亡くなっていました。
詩万ちゃんのお母さんと千広さんは、大変な年の差婚だったのでした。
私の勝手な想像なのですが、かなりの高齢出産だったと思われるお母さんは、詩万ちゃんの出産で命を使い切ってしまったのでしょう。
どうやら千広さんのご両親は既に他界しており、親戚も遠くにしかおらず、千広さんの妹の那由さんに手伝ってもらいながら、千広さんは、一人でここまで詩万ちゃんを育てたのです。

そんなエピソードがほんのさりげなく入ってくるのです。

それから物語は収束に向かいます。
なんてことはないのです。二人の日常が続くのです。
でも、詩万ちゃんは二年生になったり、千広さんは中古車を買ったり、毎日はちょっとづつ変わっていきます。

そして、那由さんに婚約者ができたり、隣の波ちゃんが高校生になったりと、おめでたいことがあります。
二人のなんでもない毎日が、詩万ちゃんが千広さんのもとを離れるまで続くのだけれど-実はそれはあとほんの数年なのだろうけれど-、詩万ちゃんのお母さんのことを知ると、読者は、このなんでもない毎日が奇跡なのだと、心から思えるようになります。

そう思わせる、関谷さんのプロットづくりが、すごいうまいのです。
(詩万ちゃんの失恋→詩万ちゃんの誕生日→お母さんと千広さんのこと→周りの人々のおめでたいことと毎日)
そして、やっぱり関谷さんの特筆すべきスキルは、ほんとうに何気ない小さな感情を物語にできること。

これは愛のお話。
街の灯りのひとつひとつの下には、そんななんでもなくても奇跡的な愛があって、それは目に見えないけれど、我々の生活の底に、大きな川のように流れているのでしょう。

私は、若いころ過ごした、誰も知り合いがいない東北の小さな町で、夜の仕事が突然なくなって暇を持て余し、なんとなく行きついた夜の北上川の流れを思い出します。
闇の中で何も見えなくて、川の流れの音だけが耳に届く。
きっと、私たちの毎日を支える愛の流れはそんな感じなのではないかと思います。
これからも耳をすませば、あの音が聞こえてくることもあるでしょう。


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テーマ : 漫画の感想
ジャンル : アニメ・コミック

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No title

いつもコミックや音楽に対する感想が、いいなぁと感じています 
普段丁寧に生活している人なんだろうなと 
最後の段を読んで、自分の知っている静かな夜の音を思い出そうとしました 
寝る前にでもじっくり思い出してみます
ありがとうございました

Re: No title

> えぴ さん
いやいや、そんなお礼を言われるようなことは・・・。

父と娘のほのぼの日常マンガかと思っていたら、愛に殉じたある女性と、その女性と娘に半生を捧げた男性のお話でした。
お母さんは、娘の成長を見届けられなくて、つらかったのでしょうか。
それとも、最後の最後で子供を授かった幸せを感じたのでしょうか。
そして、これから娘が巣立っていった父は一人で余生を過ごし、死ぬときどう思うのでしょうか。
千広さんのことだから、「俺は幸せだった」って言うような気がします。
幸せって、どういうものなのでしょうかね。
そんなことを思いました。
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なお

Author:なお
いいトシしてバイクの免許を取得。
相棒はDUCATI MONSTER696とHONDA solo。
バイク以外の趣味はお菓子作り。
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